プロンプト詳細

投稿日:2024-05-03 00:50:59/更新日:2024-05-04 19:05:52
タイトル
【タナトスの扉】
作者
説明
まだ途中で、完結していません  大帝国の病弱少年皇帝とその姉の物語です。                                      
転載・改変可否
説明欄での条件による
(未記入の場合、個別に許可を得られなければ禁止です)
プロンプト(本文)
「はぁ~」
ある春の麗らかな日、穏やかな気候とは裏腹にネロの気持ちは荒んでいた。
大帝国であるエスターリャ帝国の皇帝であり歴代最強の魔法の使い手。
彼は幼くして帝位をついでいて、幼少の頃には年の離れた姉であるシェヘラザードが摂取をしていた。
聡明で傾国の美少年だが病弱で、仲の良い姉にはよく心配をかける。
この世界では貴族階級以上が魔力を持ち、身分が高い程その力が強くなるが、
帝国を治めるヴォージャクローブ朝は神孫で、その力は他の王族を圧倒する。
この世界では皇帝は1人しか存在せず、従って皇族も一つしか存在しない。
この国は、帝国を名乗れる唯一の国なのだ。
その帝国の皇族は、普通は先祖の最高神に準じる程度の力を持っているが、数百年に1人彼のような、"神眼"が現れる。"神眼"は、先祖となる最高神の生まれ変わりとされ、最高神と同等の能力を持つ者のことで、皇族に特徴的な虹色がかった目を両方持つことからそのような呼称が生まれた。
皇族1人で国ひとつ簡単に滅ぼせる力があるが、神眼は世界を簡単に滅ぼせられる。
そんな彼は今、苦悩していた。
「いかがいたしましょうか。」
シェヘラザードが心配そうにこちらの様子を伺っている。彼女の前には数枚の女性の名前と出身の書かれたリストがある。いわゆる、妃選びだ。今日は珍しく気分が良く、ずっとお部屋に篭っていても気詰まりでしょう、と姉に誘われ中庭の温室へ散歩に出たのが先刻、疲れたので一休みしようと東屋へ立ち寄った矢先にこれである。最初に散歩に誘った時点で覚悟していたがいざ問われると返答に困る。彼に気を使わせないよう耳の聞こえない従者を連れ添ったのも彼女なりの配慮なのだろう。御子は作らなくていい、形だけの婚姻でいいと彼女は言うが、それでもこの問題はネロの頭を十分悩ませるものだった。これまでは、その手の話は全てのらりくらりとかわしてきた彼だったが、14にもなるとそうはいかない。婚姻は他国との関係を結ぶ際の重要な一手となるし、また国内から妃を選んだとしても貴族間のパワーバランスにも関係する。宰相としての立場上、シェヘラザードも頭を悩ませているのだろう。事実彼は、圧倒的な美貌や儚げな雰囲気で女性はおろか、男性にも人気がある。そのため、向こうから断わるのを待つという手は使えない。
「はぁ~」と彼はもう一度深いため息をついた。
「姉上、私はどうすれば良いのでしょうか?」
彼は、生まれてから今までで初めての悩みを彼女にぶつけた。
「あなたがどうしたいかではないですか?」
姉の返答は素っ気ないものだった。
「ですが、貴族の娘の多くはこの帝国の力を求め私と結婚を望んでいます」
「それはあなたの持つ強大な魔力が目当てなのでしょう?それにあなたは優しい子です。どんなに優れた政略結婚だったとしてもきっと気に病むことでしょう」
「ならば、どうすれば良いのでしょうか?」
シェヘラザードは小さくため息をついたあと、
「まずは、この中の1人に会ってみては如何でしょう?」と言った。
「会ってみることは良いかも知れませんが、その後どうしたらいいのですか?」
彼はこれまで政略結婚の類を経験せずにここまで来た。そのためどうやって相手を選べばいいかすら分からないのだ。
「まずは、自分自身をさらけ出して相手と話をすることです。それに私共もおりますゆえ、あなたの選択に誤りなどないでしょう」
そう言うと彼女は優雅にお茶を一口飲みこちらに微笑みかけた。

その夜、彼はベッドのそばにいる不寝の番を魔法で眠らせ、誰も見ていないことを確かめてから、いつものルーティーンに取りかかった。まず、自分の肉体と意識を分離させ、肉体をベッドに横たわらせた。こうすることで、彼がこの空間から抜け出したことに誰も気がつかない。次に、彼は空中に魔法陣を発動させ、"ゲート"を展開する。そこからゆっくりと歩みを進めていくと、木漏れ日のさす深い森の中に行き着く。ここは、ネロの作り出した異空間、意識を分離させる魔法や異空間を作り出す魔法はかなりの上級魔法で、特に異空間を作り出す魔法は世界中でも完璧に使えるものが数える程しかいない魔法だ。
だが、ネロは幼い頃から夜な夜なベッドを抜け出しては、こうして異空間へ遊びに来ていた。ここでは意識下でしか存在できないため、痛くも苦しくもなく、走ることさえ可能にする。これは生来体が弱く、皇帝という立場のため、滅多に外出できない彼のささやかな楽しみだった。
森の奥深くまで歩いて行くと、大きな泉がある。そこから、さらに森の奥へと歩を進めて行くと小さな小屋が見える。その小屋には"V"という文字が書かれた看板が立てられていた。
ここはネロが物心ついた時からある秘密基地のような場所だ。ここへは誰にも教えておらず、普段自分が異空間にいることを知っている者もいないため、彼はここで一日を終えることが多かった。それに、ここは静かで居心地がいいのだ。
Vという文字が書かれている以外は特にこれと言った特徴もない質素な小屋だが、中に入ることはできない。おそらく、何か封印してあるのだろう。彼は、小屋のまわりを歩きながら、木漏れ日や泉の美しさを楽しんでいた。
「婚約、か」
彼はふと、先帝である母のことを思い出していた。
ネロの母は、繊細で優しい人だった。彼女は、ネロが何度も体調を崩し生死の境をさまよう様を見て心を痛めてしまい、心労が祟って彼が3歳の時に亡くなり、彼が帝位を継ぐこととなった。彼の父は、彼が生まれる前に亡くなっていたので、これで家族は姉と二人だけになった。
病弱な彼には自分の将来はおろか、明日自分が生きているかどうかさえも想像することが出来なかった。彼は自分の将来を考えてくれていることを喜んでいるのだと気づき、苦笑した。

次の日、彼は発作を起こし、血を吐いて倒れた。すぐに宮廷医が駆けつけ、処置を施した。しばらく静養すれば後は大丈夫だろうということで、自室で休むことにした。ベッドに潜り込み、またか、とつぶやく。
こんなことで、自分はあと何年生きられるのだろうか。自分が生きている間に、どれだけのことができるのだろうか。そんなことを考えているとノックの音が聞こえてきて、部屋に姉が入ってくる。
「失礼します」
そう言って彼女はこちらに近づくとネロの手をとり、掌を上に向けさせた。すると、手から淡い光があふれ出し、彼女の手が淡く光りはじめる。少しづつ光が消えていき、彼女が手を離すとさっきまで感じていた息苦しさもなくなっていた。おそらくこれは"癒し手"の力だろう。彼の能力は、姉の"癒し手"とは対極にある。"癒し手"は他人の傷を癒したり、怪我を治すことができるが、彼は自分自身の傷を癒すことはできないし、また病気になることも出来ない。
「姉上のおかげで楽になりました」
そう言うと彼女は優しく微笑みかけてくる。その微笑みを見ると、自分が本当に孤独な人間であることを思い知らされる。皇帝という立場であるが故に誰にも弱みを見せることができず、常に気を張らなくてはならないのだ。そんなネロに彼女の微笑みは束の間の安らぎを与えてくれる。
「私はあなたの味方です」
そう言うと彼女は部屋から立ち去っていった。皇帝という孤独な存在を、ただ一人の理解者が支えてくれている。だが、それだけではまだ足りないのだ。彼女にはもっと彼を癒す力が必要なのだ。彼には彼女しか頼れる人はいないのだから……
「婚約者ですか……」
1週間ほどたったある日のこと、シェヘラザードがそんなことを言った。彼にもそろそろ婚約者を決めてもらわないと困るのだが、彼はまだ決めかねている。そこで、シェヘラザードは妃候補の娘達との見合いの場を設けることにした。「わかりました」
彼は少し悩んだ後、そう答えた。正直乗り気ではないが、婚約者を決めないままにしておくわけにもいかなかった。そして、見合いは2日後に行われることとなった。
妃候補の娘達との見合いの場が設けられた日、ネロは自室で兵法書に目を通していた。政治や経済を学ぶことと同じくらい彼は兵法書が好きだ。戦がいかにして起こりうるかということを知っておくことは有意義なことだと思っているからだ。しかし、誰が敵になりいつ攻めてくるかという事を事前に知っているのは有利なことであり、彼にとっても都合が良かった。
彼は"ゲート"で異空間に飛び込むと、深い森のさらに奥にある泉へと向かう。そこは日の光が差し込み、まるで天界に迷い込んだかのような美しさを醸し出している。泉は青く透き通っており、魚たちが優雅に泳いでいる。彼が"ゲート"でここへ来れるのも、この不思議な美しい場所があったからなのだ。
"ゲート"には異空間と通常空間を繋げる力があるが、この泉から外へは出ることが出来ない。いや、厳密に言えば出ようと思えば出られるのだが、外へ出たところでそこは彼の作り出した"ゲート"の中だ。そのため外へ出るためには、再びここへ戻ってこなければならないのだ。彼はこの泉に来ると決まってこの場所で1日を過ごす。誰も知らないこの場所が、彼にとって唯一の憩いの場所だった。見合いの事など忘れて、ただ自分の将来について考える時間が彼には必要だったのだ。
ふと気がつくともう夕方だった。そろそろ帰らなくては行けないなと彼は思ったが、その前に小屋の様子を見て行こうと思い立ち泉を後にし小屋へと歩みを進める。しかし、数歩進んだところで立ち止まりあたりを見回してみるが特に何の変化もない。もちろん誰かいる気配もなかったのだが、彼はなんとなく小屋の様子が気になったのだ。小屋の前に来てみても、もちろん何も起こらない。なんだ、と思いそのまま帰ろうとするとふと、文字が少し霞んていると思うことに気づいた。古い小屋だもんな、と思いその日はそのまま帰った。  
          
「アルノア王国第一王女、クレノア・ヴァン=ナルニア=シェルエスタ様でございます。」
家令の声とともに、17、8歳くらいの少女が使者を連れて入ってきた。
「クレノア・ヴァン=ナルニア=シェルエスタでございます。陛下、お初にお目にかかります。」そう言って彼女は手を伸ばし指輪からポウッと光を発現させ、こちらへ送り出した。これは、この世界での貴族間での挨拶で、自分の魔力の一部を相手に送り出すことで相手への祝福の意味を表すものだ。
「ネロ・ヴァジリッサ・ヴィル・ヴォージャクローブ=エスターリャです。本日は遠いところようこそお越しくださいました。」
ネロも同じように玉座を囲った薄絹の隙間から手を伸ばし、魔力を送り出す。最近は上手くコントロール出来るようになったが、昔はよく魔力を送り過ぎて相手を卒倒させていた。
国の君主同士が対面する場では、相手の腹の探り合いが必須となる。
「今日は空が綺麗ですね。」
彼女はあたりを見回すとそう言った。たしかに、今日は天気が良く雲一つない青空が広がっている。「そうですね」彼は彼女の様子を見て警戒しながらもそう答えた。
彼女はそれからしばらく当たり障りのない話をしてくるが、正直言って意味のない時間だった。なぜこの見合いで彼女はこの場にやってきたのだろう?結局彼女の意図は分からずじまいだが、おそらくただの気まぐれだろうと思い直した。それからまたしばらくすると本題がやってきた。
「我々アルノア王国は貴国と同盟関係にあります。どうか、イノス皇国の侵攻に立ち向かうため、我々にお力添えいただけないでしょうか。」
そうきたか、と彼は思った。ここまではっきりした物言いをするということは、かなり切羽詰まっているということだ。
そして、彼が同盟を締結しなかった場合のデメリットは想像に難くない。
「お気持ちはよく分かりました」そう彼は言うと考えを巡らせ始めた。まずはこの申し出が、彼の国にとって何を意味するのかを考えなければならない。アルノア王国は帝国の属国のひとつであり、はっきり言って支援する程の義理はない。しかし、帝国が周辺国を仮想敵とみなしているとされ、他国が対帝国に向けて協力関係を結ぶことの方がずっと厄介だ。そして、何より……
「ですが、帝国は他国の戦争に介入することはありません。」
彼はそう答えた。同盟を締結しようがしまいが、帝国の国力が疲弊するような事態にはならないだろうと思っているし、そもそも戦争自体起こらないだろうと思っているからだ。しかし、彼女にはその事実を知る由もないだろうと思いあえてそう言ったのだ。すると彼女は少し落胆したような様子だったが、すぐにこちらを見据えるとこう言った。「私は一人の皇帝の臣下として貴国をお慕いしております。もしよろしければ婚約をしていただけませんか」
そう言ってきた彼女の目には強い意思が感じられ、おそらく同盟を締結するまでは帰らないだろうということがうかがえた。
「そうですか、わかりました。では、紫陽花の花の落ちる頃にまたお会いしましょう」
こう言って、この会はお開きとなった。
彼が、今回の話の真意を理解して了承したわけではないとわかったのか、彼女は少し落胆した様子で帰っていった。
彼女が去った後、彼は壁に向かって話しかける。「どうだ」
すると、数名の男女がすっと現れた。彼らは視覚術式で自分達の姿を隠しながら、ずっとそばに控えていたのだ。王女には、自分と家令、それと後ろに控えていた侍女二人だけしか見えなかったことだろう。
 「どう思いますか」
そう言うと、彼らはしばらく考えた後それぞれ意見を述べてきた。
「彼女からは特に異常は感じません。ただ、配下の使節には箝口魔法がかけられていました。」
やはり、間違いない。彼は口を開いた。「彼女は嘘をついている。」
すると、その中の一人がこう言った。「ならば、彼女を拘束してしまえばいいのでは?」
すると彼は答えた。「いや、それはやめた方がいい」
「なぜですか?敵国の王女です。情けをかける必要などありません」
他の者達もそれに賛同しているようだったが、ネロはこう続けた。「それよりもさっきから天井に張り付いている誰かさんをどうにかした方がいい」
ネロは逃げようとする"彼"に向けて魔法で鎖を編み出し縛り上げた。すぐにうめき声が聞こえ、男が一人落ちてきた。誰も気づかなかったらしく、皆驚いた様子だった。
「お前、何しに来た」
尋ね終わる前に男は襲いかかってきたが、すぐに従者達に取り押さえられた。
「その者を連れて、丁重に話を聞いてやれ」
男はすぐに連行された。これから、彼は死ぬまで尋問されることだろう。

「ところで、どうして王女殿下が嘘をついていると分かったのですか?」
お見合いを終え、自室に戻る途中で家令が尋ねた。
「簡単な話だ。もしアルノア王国が本当にイノス皇国と交戦状態にあるのならば、わざわざ使者に箝口魔法をかけたりしないだろう。これはあくまで余の想像だが、おそらくアルノア王国はイノス皇国に秘密裏の対帝国同盟を持ちかけられているのではないだろうか。」
「それで、殿下はわざと嘘を?」
「あぁ、おそらくカマをかけたのだろうな。それに、天井に張り付いていたあの男はおそらくイノスの密偵だ。アルノア王国と帝国の様子をずっと探っていたのだろう。」
自室につくとネロは、宰相にこの件を伝えるよう指示した。「陛下、婚約の件はどうなさいますか。」
そうだった。ネロは特に良い相手がいなかったということも伝えるよう指示して自室に戻った。
ネロは、アルノア王国が嘘をついた理由は複数あると思っていた。1つ目は、同盟締結のために時間稼ぎをしたかったから。2つ目は、同盟締結の見返りとして帝国と直接交渉する場を設けようとしたから。3つ目は……いやこれ以上はやめておこうと思い直した。
彼は自室に入った。ここには結界が張られているので彼の許可なしには誰も部屋に入ることはできないし、盗聴されることもない。今日は疲れた、とりあえずゆっくり休もう。そう決めてネロはベッドに横たわった。今頃は宰相に連絡が伝わっているはずだ。明日、姉上はどんな反応をするだろう。

その頃、シェヘラザードは宰相政務室頭を抱えていた。おそらく、王女はネロに本気で惚れていたはずだ。それなのに、王女の目の前で婚約を断わるなんて…
確かに密約のこともある。だが、もう少し、それにしたって……
陶器のように白くキメの細かい肌、吸い込まれそうな虹色がかった深い碧の瞳、腰まで伸びた髪は月の光を受けたような銀髪で、はっきり言ってネロは相当な美少年だ。薄絹ごしに姿を見たとしても、惚れるのも無理はない。
外見だけ見れば、王女が惚れるのも分からないことはない。しかし、実の弟の恋愛事情を見るというのはなかなかつらいものだった。
それに……彼はおそらく女を知らないのだ。彼のこれまでの経歴は知っているので、どうしてもあの弟を不憫に思うことがある。そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
少しして入ってきたのは秘書官だった。
「宰相殿宛てにお手紙が届いております。」
宛名を見ると夫からだった。
夫は隣国の王弟で、三年前に婿入りしてからは帝国軍の元帥をしている。今は、遊軍将校として各地の前線に赴いてる。
手紙は、近く凱旋で帰ってこれそうだということや、シェヘラザードを気遣うものだった。
「お土産は何がいいですか、だなんて…」
明日に回せることは明日やろう、今考えても仕方の無いことは考えない、そう思い直し、よくシェヘラザードを笑わせてくれる彼のことを思いながら彼女は返事を書き出した。

***

「寒いなぁ」
バロンは外を歩きながら呟いた。春と言ってもまだ肌寒い日もある。ましてや今日のような夜番の時は特に冷え込む。
「ここも…異常なしっと」
巡回したところにチェックを入れ、次の場所に向かおうとしたその時、
「なんだ、あれ」
屋根の上に何か"いる"のである。その者は月の光を受けて舞っていた。すぐに仲間に知らせようとしたが、ふと目が合った。
「うわぁぁあ!」
突然、ものすごい激痛が走り、そのあと何も見えなくなった。

「月夜の精、ですか」
「そうです。月の出る夜にしか現れず、目が合った者に危害を加えるとか…。昨夜も一人、近衛兵が両目をえぐられています。」シェヘラザードは政務室で、秘書官から最近出るという"存在"の話を聞いていた。ここ最近毎晩現れるらしいがその正体については、皇宮から出ようとして掘りに沈んだ妃の霊や、勢力争いに負け、自殺した貴族の呪いだとも言われている。
しかし、彼が恐れているのは、そういうことではないのだろう。"月夜の精"の出現は凶兆とされる。そして、"それ"が現れるのは今回が初めてではない。
先帝の崩御の前もそれが現れた。月の出る夜は毎夜現れ、屋根の上で舞い続けた。そしてある夜を境にピタリと現れなくなった。先帝である母が転落死した状態で見つかったのは、その翌朝のことだった。
「月夜の精、ねえ」
とりあえず様子を見てみましょう、とシェヘラザードはこの話を打ち切った。

ネロは熱を出して寝込んでいた。ここ最近ずっとだ。昨日は治療に来た宮廷医に足の怪我を指摘された。外に出た覚えなんてないのに。
今朝は宮廷医が薬を持ってきた。治りが早いと言っていたが、効き目はあまり感じられなかった。
姉上は知っているのだろうか?それともまだ知らないのか?まあどっちでもいい、どうせ近いうちにバレるのだ。それに、もう"あの能力"は使わないと決めているのだから……
もう寝よう。
彼は意識を手放した。
ネロは、目が覚めると既に日は登っていた。熱は少し下がったらしいが、体がだるいので今日も休むことにした。
「久しぶりにあそこにでも行ってみるか」
ネロはゲートを開いた。異空間はいつもと変わらない様子だった。湖まで来ると、小屋の文字を確かめた。以前より"V"の文字がかすれているように思えた。気のせいだろうか。
相変わらず小屋には入れないままだ。
その日はいつものようにそこで過ごし、帰ろうとしたその時、
「…テ」 
声が聞こえたような気がした。
小屋の扉に耳を当ててみたが、特に何も聞こえない。
まあいい、と思いそのまま帰った。
目覚めると、昼近くだった。宮廷医が夕方に来た。熱が下がっていたので、明日には回復するだろうとのことだった。宮廷医が帰ってしばらくした後、今度は姉上がやってきた。
「心配かけてごめんなさいね」
そう言うと彼女はネロの頭を撫でた。
「明日には治るらしいから大丈夫です。姉上も忙しいのにありがとうございます。」「こんな時になんですが…」
と、姉は 恵授祭の話を切り出した。恵授祭とは、帝国の祝日のひとつで、年に一度皇帝が魔力によって帝国内に祝福を授け荒野や不毛な地を豊かにする儀式であり、夜には盛大なパーティーが開かれる。恵授祭には各国の王族もたくさん招待され、普段姿を見せることのない皇族達にとって外の世界と直接触れ合える格好の機会となる。恵授祭は最高神の御子である初代皇帝が帝国を建国する際に世界に祝福を授けたことにちなみ、毎年建国記念日に行われるが、普段引きこもり生活をしているネロにとって、正直耳の痛い話だった。だが余程のことがない限り、欠席は出来ない。とりあえず、誰を招待するか、進行はどうするか等の報告だけして、後は後日決めるということにして姉は退出していった。
「恵授祭…、もうそんな時期か」
ネロは即位式のことを思い出した。神眼が皇帝に即位したということでより多くの来賓達が集まった。即位式では、戴冠の儀と洗礼の儀を行う。だが、問題は洗礼の儀の方だった。洗礼の儀では戴冠の儀で賜った帝笏で、皇帝が初めて民に祝福を授ける儀式だが、そこに込める魔力量が多すぎたらしい。受け皿となる神殿の鏡の光が暴走して鏡が砕け散った。この時ネロは齢3つ。幼子のうちにこれだけの力を持つのは皇族内でも異例のことだった。神眼ということで生まれついて警戒はされていたが、思えばこの時から他国の目がさらに険しくなったように思える。極端な強さは時に畏怖の念を抱かせる。彼らにとって、神眼は危険な存在でもあるのだ。
「まあ、いい。帝国の力を示す良い機会となったしな」
ネロは独りごちると、眠りについた。

***

「またですか」
「そうです、今度は数名の近衛兵の首がもぎ取られていたそうで…」
はぁ、とため息をつくとシェヘラザードは困ったわねぇ、と呟いた。近く恵授祭もある、このまま放っておくわけにはいかない。だが、本当に正体を探し求めても良いのだろうか。もし正体が怪異の類いだったら何も問題はない。だが、他の可能性、特にシェヘラザードの考えていることが当たったら…
「とにかく、外部の者には内密にして、軍警と協力して調べましょう」
「そうですね。その方がよろしいでしょう。」
とりあえずは保留ということにして、政務室を出た。宮廷医によると明日には治っているらしいが、念の為今日は付きっきりで過ごすことにしたのであった。
翌日、彼は目を覚ました。足は無事完治していた。体がだるいのは相変わらずだが動き回る分には支障がなかった。日がな一日仕事をして、夜にはこっそり異空間に遊びに行った。文字はまた消えかけていたが、特に何の変哲もない一日だった。

***

「こちらです」
シェヘラザードは近衛兵をつれて現場に向かっていた。
「確かに、これは……」
現場には切り裂かれたような死体が転がっていた。だが不思議なことに傷跡はひとつとして残っていなかった。その不気味さにシェヘラザードは戦慄した。近衛兵の何人かに付近を調べてもらうことにしたが、結果は何もなかったようだ。
「何か分かると思ったんですがねぇ」シェヘラザードはため息をついた。「仕方ないわね、今日は帰りましょう」
宰相政務室に戻ってからもシェヘラザードはため息をついた。
「気になりますな」
秘書官が心配そうに言うので彼女は大丈夫ですよ、と返した。あるひとつの可能性が頭に浮かび、本当にそうなのだろうかとも思った。だが考えても仕方ないのでこの件は保留ということになったのだった。

***

次の日、ネロは熱を出さずにすんだ。
政務室で仕事していると、姉上がやってきた。
「お体はもう大丈夫ですか?」
「はい。この通りです」
そういうと、彼女はほっとした様子を見せた。そういえば、まだ足治った報告していなかったなと思いながら書類に目を通すと「ところで、月夜の精というのはご存知ですか」と姉が尋ねてきた。「噂程度には知っていますが…」姉が突然こんなことを尋ねた理由が分からなかった。
「月夜の精は皇家に恨みを持つ者だという噂もあります。」
「はあ……」
それは、皇家という大仰な位があるからではないのか。それか、自分みたいに体が弱いからなのか。だとしたら馬鹿馬鹿しい話だ。自分は皇帝である以前にただの子供に過ぎないのだから。姉上はまだ何か言いたげだったが、それ以上は何も言わなかった。仕事に戻ったので自分も執務室に戻ろうとすると、誰かが宮廷医と話しているのが見えた。あれは、確か……
「あら、陛下。もう大丈夫なのですか?」
シェヘラザードだった。姉上は心配そうに彼女を見ている。おそらくさっきまで話していたのだろう。
「はい」と言ってそれから何気なく彼女の方に目をやると一瞬目が合ったような気がしたがすぐに逸らされたので気のせいだろうと思いなおした。「熱は引いたのですが、足はまだ完治していなくて」
「そうですか……。無理はなさらないでくださいね」
と言ってシェヘラザードは再び宮廷医の方に向き直った。
彼女はなんだか何か知っているような顔をしていたような気がしたが、今は政務に戻らなくてはならないので執務室に戻った。それからしばらくは何事もなく過ぎ、ついに恵授祭の当日になったのだった。

***

(あら?あれは)
シェヘラザードは、何冊かの本が落ちているのを見つけた。どれも古びて、表紙は色あせている。こんな本、皇宮内にあったかしら?どれも古語で書かれているようだ。
彼女はそっと拾って読んでみた。どうやらこれは、初代皇帝が書いた本のようだ。宮廷の逸話や、建国の過程での戦争についてなどが書かれている。さらに読み進めていくと、"異空間"について書かれたページを見つけた。
「これは……」
彼女の頭には嫌な想像がよぎった。異空間に入る条件はいくつか考えられるが、もしそれが本当に正しいとしたら……
そんなことを考えているうちにも時間は刻々と過ぎていくのだった。

***

「姉上」
政務室に戻る途中で、後ろから呼び止められた。見ると、ネロだった。
「どうしましたか?」彼女は笑顔で返事をしたが、少し表情が固くなってしまったかもしれないと心の中で思った。あの本を見たせいでネロを一人にしておくことに不安を感じていたからだ。
「姉上は何か知っていますよね?異空間のこと……」
彼は全てを察したようだ。やっぱりそうだったのね……シェヘラザードは答えることにした。
「ええ、知っていますよ」やはりそうかと思うと同時に様々な感情がこみ上げてきた。
「姉上、私はどうすればいいんでしょうか……」
ネロは不安そうだ。やはり彼の心はまだ幼い子供のままなのだ。そう思った瞬間、彼を抱きしめていた。彼がどんな反応をするかも分からないまま、ただただ彼を安心させる為に背中をさすり続けたのだった。

***

夜が更けた頃、恵授祭が始まった。皇帝は魔法で祝福を授け、帝国の繁栄と来年の豊穣を祝った。彼がまだ幼かった頃には魔物が出没していた地域もあったが、近年めっきり見られなくなったのでそこは問題なかったようだ。今年の恵授祭は平和に終わったのであった。
皇宮に戻る際に姉上に相談してみたんだが……でもこればっかりはどうしようもないのよねと思った彼女は結局何も言えないまま部屋に帰ることになってしまった。けれど彼が異空間に行けたことなら……。
しかし、今それを考えても仕方がない。夜には舞踏会がある。今は舞踏会に向けて身支度を整えることにしたのだった。

舞踏会はいつも通り何事もなく進んだ。宰相である姉のシェヘラザードは来賓達に挨拶をしたり、会場を歩いたりして様々な人と関わり合っていた。皇帝あるネロは自分からは人に話しかけるタイプではないので、こういう場ではいつも姉が気を遣って相手をしてくれていた。
舞踏会も終盤に差し掛かった頃、ネロはテラスに出た。恵授祭の日に誰にも見られずに願い事をすると願いが叶うと言われているのだが……なかなか願い事が決まらなかったのである。彼の望みとは何か。それは……
「お困りですか?」
どこからか声がしたので振り返ってみると、シェヘラザードがいた。
「ええ……」彼は姉に相談してみたが彼女は何か考えているようだった。少し間をおいてから、「それなら、自分で行動してみましょう」と言ってどこかに行ってしまった。後で詳しく教えてもらおうかなと思ったりもしたがとりあえず願い事を決めることにしたのだった。だが願い事はそう簡単には決まらなかった。「姉上ならすぐに決めてしまうのだろうけど……」
姉上……、姉上は僕に何を望むのか。僕が皇帝になることだろうか?それとも自分が死んでしまっても後継ぎが残せるようにする為なのか。自分にはよく分からない。けどそれは彼が皇帝だから決められることではなくて自分自身で決めることなのではないかと思うのだ。そして考えに考えて彼は願い事を決めたのであった。

舞踏会が終わる頃にはすっかり夜が更けていた。次の日には恵授祭の後片付けをしなければならないのだがその前に宰相に聞いておかなければならないことがある。
「姉上、願い事が決まりました」
そう言うと彼女は少し驚いたような顔をしたがすぐに笑顔になった。
「そうですか。それで、何を願ったのですか?」
彼女は興味津々といった様子だ。ネロは
「……秘密です」と言って微笑んだ。すると姉上は不服そうな顔をしていたがすぐに気を取り直したようだった。
「まあ良いでしょう。その方が皇帝らしいですもの」と言った後、「それでは行きましょうか」と歩き出したので彼も彼女の隣を歩いたのだった。皇宮に戻り寝る準備をした後自室でふと思ったことを口にしたのであった「そういえば僕が恵授祭に出たことってあまりなかったよな……」あの時は熱を出してしまうせいで儀式に行けないことが多かったのだ。そう思うとなんだか不思議な感じがしたが眠気に負けて眠りについたのであった。

***

翌朝、朝食を済ませた後ネロは政務室にいた。昨日から頭が痛い……これはもしかして……と思い自分の額に手を当てた途端目眩がしたので慌てて薬を飲んだのであった。
「陛下?」と、近くにいた重臣達が声をかけてきたので彼は平気だと伝えた。だが本当に平気なのか自分でもよく分からなかったのだ。しばらくすると眠気が出てきし始めたものの、なんとか持ち堪えて仕事を続けようとするがうまくいかないようだった。仕方なく一旦休憩することにしたのだった。しばらく椅子に座っていたが、どんどん頭痛が酷くなっていくので自室に戻ったのである。
彼が自室で休んでいると、ドアをノックする音がした。「宰相殿がいらっしゃいました」と家令が言った。「陛下?入りますよ」と言いながらシェヘラザードが入ってきた。「どうしたのですか?」と聞かれるとネロは頭を押さえながら言ったのだった。「……頭が痛くて……」
すると彼女は驚いて駆け寄り、侍女に薬を持ってこさせたり、宮廷医を呼ばせたりして対応してくれたのだ。その後しばらくして落ち着いた彼は彼女のことをぼんやりと見ていたのだが……気づいた時には視界がぼやけていて何も見えなくなっていたのだ。やがて意識も遠のいていったのだった。

目が覚めるとそこは自室だった。皇帝は頭痛で倒れた後、皇宮内の居室に移ったのであった。それでも頭は痛くてぼんやりしていたものの寝ることはできずに天井を見つめていたのであった。すると突然扉が開いて誰か入ってきたのだ。その者はネロが寝ているベッドの横まで来ると優しく頭を撫でながら言ったのである「心配しましたよ……」と優しい声で言われたので彼の中で安心感が増したような気がした。だがまだ体を起こすことはできなかったため目だけをそちらに向けると……
「姉上……?」と呟くように言うとシェヘラザードはゆっくりと近づいてきて言った。「大丈夫ですか?急に倒れて驚いたのですよ……」彼女はベッドの横に座って手を握ってくれているようだった。そして再び頭を撫でながら言ったのだった。「本当に心配しましたよ……あなたは私の弟なのですから、もう少し自分の体を大切にして欲しいものです」そう言いながらも彼は自分のことを大切にしてくれていることを知っているネロは嬉しかったし、幸せだと感じたのである。「姉上……ありがとうございます……」と言うと彼女も嬉しそうに微笑んでくれた。
その後2人で一緒に部屋を出た後、彼は自室で横になっていたのだがその間に姉と昔のことを話したりしたのだった。
それから数日経った頃、ネロの体調はすっかり良くなっていたので少しずつ公務を行うようになったのである。そんなある日のこと、宰相であるシェヘラザードがやってきたのだった。 

***

彼女は部屋に入るなり「体調は大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてきた。それに対してネロが答えたのは、「おかげさまでもう大丈夫ですよ」と言うものだった。それを見たシェヘラザードは安堵の表情を浮かべていたが、ふと思い出したかのように話を続けたのである。
「ところで陛下、実は折り入ってお願いがあるのですが……」と言った後に一呼吸置いてから口を開いた。そして「私と星を見に行きませんか?」という話を聞いたネロは驚いてしまったのだった。なぜ急にそんなことを言うのかと尋ねると姉は「最近あまり時間がなくて、あなたとお話ができなかったじゃないですか。だから一緒に星を見たいなと思って……」と言うではないか……それを聞いてネロはますます動揺してしまい何も言えなくなってしまったのである。
しばらくして我に返った彼は冷静になった後、こう答えたのだった。「……いいですよ」すると彼女は嬉しそうな顔をして喜んだのだが、その後少し考えてから申し訳なさそうにこう言ったのである。「あの……私一人だと不安なので……」それを聞いた瞬間思わず吹き出してしまった彼だったがすぐに気を取り直して答えることにしたのだった。
「……わかりました」シェヘラザードからの誘いを断る理由などなかったからだ。こうして2人は星を見ることになったのであった。
2人は、ネロが以前作ったゲートで移動することにした。おかげで誰にも見られることなく目的地に到着したのであった。そこは何もない草原だったが、高台になっていて天体観測にはうってつけの場所だった。空を見ると雲が晴れていて星が見えていたのだった……。
「陛下、ここから見る星は綺麗ですね……」とシェヘラザードが感嘆の声を漏らすように言った。それに対して彼も頷いて見せたのであった。
2人で並んで空を見上げているうちに時間は過ぎていったのである。そしていつの間にか夜も更けてしまい、2人は部屋に戻ることにしたのだった。

翌日、ネロはまた頭が痛かったが昨日は自分で同意したことなので、彼女に悟られないように気丈に振る舞っていたのである……。「陛下、無理はしない方がよろしいかと……」と言われたものの気にしないでと言って誤魔化した彼だったのだが結局バレてしまっていたのである……。彼女はすぐに宮廷医を呼んで診させた後、ベッドの上で横になるよう進言したのだった。「わかりました……」
そのせいか、その日の夜からネロは少しずつではあったけれど体調が良くなっていったのである……。

頭痛に悩まされていた皇帝であったが、徐々に回復に向かっていったようだ。ある日のこと、彼は仕事を早く切り上げて自室に戻っていたのだがそこで姉に会ったのだ。「今日はお休みになったのですか?」と尋ねると彼女は微笑みながら言った「いえ、少し調べ物をしていて……」そんなやりとりの後、少しの間2人で話をしていたのだが、会話が途切れたタイミングで突然彼女が何かを思い出したかのように声を上げた。「そうそう……忘れるところでした……」と言った後でネロの目の前にやってきて立ち止まったのだ。そして彼のことを真っ直ぐに見つめながら言ったのである。「陛下、月夜の精について何かお心当たりはありませんか?」
と聞かれたのだ。
ネロは突然のことに驚いたが、それでも必死に考えた結果こう答えたのである。「ごめんなさい……わかりません……」それを聞いたシェヘラザードはがっかりした様子だったものの、すぐに気を取り直して再び問いかけてきたのだった。「そうですか……ではあなたは何か知っていますか?」今度は違う質問をされたので彼は答えようとしたのだがなぜか言葉が出てこなかったのである。どうしても思い出せないでいると彼女は納得したような顔をして頷きながらこう言ったのだった。「……そうですか、わかりました」そう言って彼女は立ち去った。

***

「宰相殿、本当に行かれるのですか。」
その夜、シェヘラザードは月夜の精が現れたという場所に向かっていた。これまでの皇帝との会話の中で、あるひとつ可能性が徐々に現実味を帯びてきたのだった。できるだけ内密に調査したかったので、護衛も一人だけだ。彼女は帝国屈指の戦士でもあり、いざという時には身を挺して皇帝を守る覚悟をしていたのである。
そしてたどり着いたその場所は暗い森の中にあった……。「確かにここね……」シェヘラザードは心の中で呟いた後で意を決して足を踏み出したのだった。
しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。
そこから屋根を見上げると、月夜の精の姿が見えた。それは、息を飲むほど美しい光景で、屋根から飛び降りて死んだ母にとても似ていた。シェヘラザードはそばに駆け寄った。
「戻りましょう、陛下」
すると彼はばったり倒れ、そのまま動かなくなった。
「殿下、これは一体…」
困惑する衛兵に向かって彼女は静かに答えた。
「夢遊病です。私の母、オリーフィア帝も最中に自殺しました」

***

「おはよう、姉上」とネロは言った。するとシェヘラザードはいつものように微笑み返えしてくれたのだがその表情にはどこか暗い影があったのだ。どうしたのか尋ねたところ彼女は何も言わずにただ首を横に振るだけだったのである……。それから数日後のこと、いつものように公務を行っていたネロだったが、途中で心臓が痛くなったのである。そしてそのまま倒れてしまい、意識を失ってしまったのだった……
次に目を覚ました時、彼はベッドの上に寝かされていた。傍らには心配そうにしている姉の姿があった。「良かった……目が覚めてくれて……」そう言って彼女は安堵の表情を浮かべたのだ。どうやら自分は無理をして倒れたらしく、何度も心臓が止まったりして危険な状態だったそうだ。しばらくは休養を取るように言われたので休むことにした。休養の間、ほとんど毎日宮廷医たちがネロの元に訪れた。
そしてついに痛みが和らいできたある日のこと、ネロは再び外出して星を見に行くことにしたのだった。その日はシェヘラザードと2人で出かけたのだが、夜になると雨が降ってきて地面がぬかるんでしまったため予定を変更して帰宅することになったのだ。「陛下はお優しい方ですね」と微笑みながら言う姉に対して彼も笑顔を浮かべながら頷いたのだった……。

それからしばらくして体調も回復してきた頃のこと、ネロは再び政務を行うようになっていた。今は問題なくこなせるようになっているので、以前と変わらない日常が戻ってきたようだった。

その夜、ネロは久しぶりに異空間を訪れていた。小屋の文字はほとんど消えかかっていた。いつも通り過ごして帰ろうとした時、またその声が聞こえた、今までにないくらいはっきりと。
「出して、ここから出して」
必死で外に出ようとしているのか、扉をドンドンと叩いたり、爪で引っ掻く音が聞こえてくる。
ネロは小屋の扉に向かって叫んだ。
「お前は何者だ」
すると、物音はピタリとやみ、声が聞こえた。
「おいで」
ネロは扉を押した。すると、扉はすっと開き、中には刃物や首吊りのロープ、そして吊り下げられた小動物の死体…。
「これは…」
そうだった。ネロはやっと自分の望みを思い出した。狂おしい程に欲していて、それでいて手が届かないとわかった時、絶望し、その感情ごと封印してしまったもの。
「…死にたい」
ネロはようやく、その望みを口にすることが出来た。そして、自分のやるべきことがわかった。封印はまだ、完全に解けてはいない。
「…解除」
こうしてネロはようやく、長らくその内に秘めたまま使わなかった能力、すなわち任意の存在を消す魔法を解くことが出来た。
こうしてネロはその存在─────自身の負の感情や死への願望と対峙した。
「これが、君の望みなんでしょ」
にっこりと笑ってナイフを差し出すそれに対してネロは頷いた。「ああ、そうだ」
そして、ネロは差し出されたナイフを手に取り、自分の喉を掻き切った。
それは血に染まっていくネロの姿を満足そうに眺め、ネロを食べ始めた。喰われる直前にネロが見たもの、"それ"はネロ自身の姿をしていた。

***

皇帝が目覚めなくなってから一週間がたった。宮廷医団総出でネロの回復を試みたが、どうやらその見込みはないらしい。このままでは間違いなく衰弱死するだろう
。シェヘラザードはずっと彼のそばについていたが、何も出来なかった。
その間、皇帝は一度も目覚めることなく眠り続けたままであった……。「陛下……」
ネロが眠り続けてからさらに数日がたったある日のこと、シェヘラザードは異空間に関するある記述を見つけた。それは、古い魔導書で、異空間に関する情報や、他者の魔法領域内に入り込む方法が記されているものだった。「もしかしたら……」そう思ったシェヘラザードは早速行動に移した。

「宰相殿、本当によろしいのですか」
秘書官の一人家尋ねた。確かに、これからやろうとしていることはかなりリスクを伴う。帝位継承順は魔法の強さが基準となるので彼女のような帝国皇太子の身で行う場合、失敗した時のことを考えると、彼女としても気が進まないのだ。しかし、今これを出来るのは私しかいない。
「あなた達できるというのならばやるなとは言いませんが、まあ、すぐに全滅して終わりでしょう。」
そして、部下たちに向かってこう言った。
「今からすることは陛下をお救いできるかもしれない唯一の方法です。今からこの件に反対する者は陛下への暗殺を図ったとして反逆罪とみなします。それと、万一私の身に何かあったら後のことはサルバドールに任せます。」サルバドールと呼ばれた男は、何も言わず、静かに一礼した。
そして、シェヘラザードはまず、肉体と意識を魔法で分離させた。横たわる自分の肉体を見て、第一段階は成功したと思った。問題はここからだ。シェヘラザードは自分が作り出した異空間を、ネロの異空間と連結させなければならないのだ。これまで調べた結果から、ネロの異空間のどこかの膜が薄くなっていることがわかっている。この一因が、おそらくネロが昏睡状態に陥る理由となっているのだろう。もし、異空間の狭間に落ちた場合、二度と戻って来れないだろう。ネロが狭間に落ちていた場合もそうだ。だが、行くしかない。弟を救えるのは、私しか居ないのだから。
「ゲート」
シェヘラザードは意を決して中へと踏み出した。

***

ネロにとって、死は身近で心惹かれるものだった。幼い頃から病弱で、常に死と隣り合わせの生活を送っていた。外にも出られないことがほとんどで、ベッドの上で一日を過ごすことも少なくなかった。
そんな生活の中で唯一の楽しみといえば本を読むことだった。その中で、"タナトス"について書かれた本があった。タナトスとは、元々は死を司る神のことで、広義では人間の無に帰ろうとする気質を表す。
ネロは、読み進めていくうちに自分が本当は死に惹かれていることに気づいてしまったのだ。そして、それはおそらく他の人には分からない感覚なのだろうと思った。
ネロは自分の死に惹かれると共に、他の死にも惹かれるようになった。ネロが動物を惨殺するようになったのはその頃からだった。最初は、鳥や鼠などの小動物から始まり、徐々に大きな動物に変わっていった。そしてついには人間を襲うようになったのだった。帝都から離れた農村や村はずれにきたものをいたぶり殺すのだ。ある時その噂を聞きつけた近くの村の者が討伐隊を出したことがあったのだが、結果は散々なものだったらしい。無残にも殺された死体の山を前に、ネロは恍惚とした表情を浮かべていた。
死は何て美しく儚いものなのだろう、とネロは断末魔の声を聞きながらいつも思った。行動範囲を実際の場所から異空間に移した時も、それは変わらなかった。生き物が息絶える瞬間のあの目は何て美しいのだろう。命の灯火が消えるその瞬間の悲哀に満ちた表情が、彼の心を掴んで離さなかった。
行動範囲を自分の異空間に移してからも、それは変わらなかった。自分の意志や感情を自ら殺すまで…
"ここ"に来てから、彼は自分の中の何かが変わっていくのを感じていた。それは彼本来の性質に依るものかもしれないし、あるいは……

***


そして、現在に至る。シェヘラザードは異空間への門を開き、ネロの異空間に足を踏み入れた。そこはまるで別世界だった。空は暗い紫色に染まり、地面は赤いバラのような花で覆われている。その真ん中にそびえ立つ城の前に彼女は降り立った。城の中に入るとそこには不気味な空間が広がっていた。部屋中に置かれた棺桶の中には人が入っているようだったが誰も動く気配がない。「これは一体……」シェヘラザードがそう呟くと、どこからか声が聞こえてきた。「ようこそ、我が城へ」それは若い青年の声のように聞こえた。
「貴方は誰ですか?」
シェヘラザードが尋ねると、声の主はくすりと笑ってから答えた。「私はタナトスだ。君の名前は知っているよ、帝国皇太子のシェヘラザード・エルラシオン・ヴィオラ・ヴォージャクローブ=エスターリャだろ?そして君はここに何しにきたんだい?」「陛下をお救いするためです。」するとその声はおかしそうに笑ったあとに言った。「無駄だよ……彼はもう手遅れだ。いずれ死ぬ運命にある…彼がそれを望んだ。」「私が……陛下をお救いします!」そう言って彼女は異空間の奥深くへと進んでいく。すると、そこには巨大な部屋があり、中にはベッドが一つ置かれていた。ベッドの上には一人の青年が眠っているように見えた。「これは……」シェヘラザードが恐る恐る近づいてみると彼は目を覚ました。しかしそれは、人間とは思えないほどの美貌を備えた青年だった。その青年は彼女を見ると話しかけてきた。
「こんにちはお嬢さん、私はネロといいます」青年は優しい笑顔で話しかけてきたがその瞳の奥には底知れぬ狂気が見え隠れしているような気がした。「貴方はここで何をしているんですか?」「私はここにいるだけで何もしていませんよ。ただここに居るだけさ」そう答えた後、彼はすっと立ち上がり彼女に近づいてきた。違う、と彼女は思った。私の知っているネロはこんなのじゃない。「貴方は陛下ではない、そうでしょ?」彼女は彼を睨みつけながら尋ねた。すると彼は一瞬きょとんとした表情を浮かべてからくすりと笑った。「まあ、そういうふうに考えることもできるかな」そう言うと彼は一瞬で彼女の後ろに回り込み耳元で囁いた。
「でも残念だったね……君の目の前にいるのは間違いなく彼だよ」その声と共に首筋に鋭い痛みが走ったかと思うと意識が遠のいていった………………………………
「宰相殿、ご無事ですか!?」
目を覚ますとそこはベッドの上だった。部屋の中で倒れていたらしい。ネロを連れ戻す前に弾かれてしまったらしく、異空間の中での出来事は夢だったかのように感じられた。シェヘラザードは起き上がり、異空間で経験したことを報告した。「陛下は、自ら望んであちらにいらっしゃるようです」シェヘラザードの言葉にサルバドールは驚いた表情を見せた。「しかし……」彼は言いよどむと、続けて尋ねた。「陛下を連れ戻すことは出来るのでしょうか?」シェヘラザードは首を横に振って答えた。「おそらくは無理でしょう……それほどまでに彼の心は既にあちらに囚われてしまっていますから……」彼女はそう言うと悲しげに微笑んだ。

***
あれから数日がたったある日のこと、宮廷医たちが集められた部屋で緊急会議が行われた。議題はもちろんネロの病状についてである。「陛下は一体どうなってしまったのだろうか?」宮廷医たちは口々に疑問を口にした。皆、動揺を隠せない様子だったが中でも一番衝撃を受けたのはシェヘラザードであっただろう。
彼女にとってネロは唯一の肉親であり、大切な存在なのだ。その彼が今生死の境をさまよっているのだ。彼女は必死に考えを巡らせた。どうすれば彼を救えるのか……しかし、いくら考えても良い案など浮かぶはずもなく時間だけが過ぎていった……
***
「陛下は一体どうなってしまったのか……」宮廷医たちは頭を抱えていた。そんな時、一人の青年が進み出た。シェヘラザードである。彼女は静かに口を開いた。「皆さん、落ち着いてください。まずは現状把握をすることが重要だと思います」その言葉を聞いた一同が落ち着きを取り戻すと、彼女は続けた。「陛下の症状についてですが……おそらく原因は精神的なものだと思います。」彼女の言葉に、宮廷医たちは困惑した表情を浮かべた。「陛下に一体何が……」彼らは口々にそう言ったがシェヘラザードはただじっと黙り込んでいた。
「宰相殿、何か思い当たることがあるのですか?」一人の医師が尋ねたがシェヘラザードは答えなかった。代わりに別の人物が口を開いた。サルバドールである。彼は冷静な口調で話し始めた。「宰相殿、陛下を救うために私はどうすればいいのでしょうか?」シェヘラザードはしばらくの間考え込んでいたがやがて顔を上げると口を開いた。「まず、陛下の心を取り戻す必要があります」彼女はそう言うと、異空間での出来事を語り始めた。
***
「陛下は自ら望んであちらにいらっしゃるようです」シェヘラザードはそう言ったが、その声は震えていた。「そんな……」サルバドールは絶句したようだった。他の宮廷医たちも言葉を失っていたが、やがて一人の医師が声を上げた。「宰相殿のお話によると、陛下の魂はまだ肉体に残っているということですね?」シェヘラザードは頷いた後さらに続けた。
「しかしこのままでは陛下の肉体はいずれ死を迎えてしまうでしょう。そうなってしまえば陛下の魂も消滅してしまう可能性があります。」彼女はそこで言葉を区切ると、今度は別の質問をした。「皆さんは、陛下を救うためにはどうすれば良いかをお考え下さいませんか?」すると一人の宮廷医が手を挙げた。
「宰相殿、一つお聞きしたいのですが……」彼がそう言うとシェヘラザードは頷いた。「何でしょうか?」
彼は言った。「陛下の肉体と魂を分離させることは可能なのでしょうか?もしそれが可能なら陛下をお救いすることができるかもしれません。」シェヘラザードは考え込んだ後、口を開いた。
「そうですね……それは難しいでしょう。陛下の魂が異空間におられる限り陛下の肉体に干渉することはできませんから……」するとサルバドールが口を開いた。「宰相殿、何か良い方法はないのでしょうか?」シェヘラザードは俯くとしばらく黙り込んだがやがて顔を上げると言った。
「一つだけ方法があります」彼女はそう言うと、異空間での出来事について話し始めた。そして最後にこう言ったのだった。「私が異空間に行って陛下を連れ戻してきます」
***
「私がもう一度異空間に行って陛下を連れ戻してきます。」シェヘラザードがそう言った時、宮廷医たちは驚きの声を上げた。しかし彼女は構わず続けた。「皆さんは、陛下の魂をこちらに連れ戻す方法について考えてくださいませんか?」すると一人の医師が手を挙げた。彼は言った。「宰相殿、それは危険すぎます!もし戻って来れなくなってしまわれたら……」しかしシェヘラザードは首を横に振った後、言った。「私は今度こそ必ず成功させます。もし失敗してしまったとしても後悔はありません。」そこで彼女は言葉を区切ると、さらに続けた。「お願いです、もう一度力を貸してください!」シェヘラザードの言葉に宮廷医たちは顔を見合わせたがやがて一人また一人と立ち上がっていった。
こうして彼女の計画は始まったのである……

***
あれから数日後、再び異空間の中に入ったシェヘラザードは周囲を見回した。相変わらずそこは薄暗く不気味な雰囲気を漂わせている。しかし前回来た時よりもさらに闇が深くなっているように感じられた。彼女は不安を感じながらも歩き始めた。すると前方に何かが見えた。目を凝らすとそれは人影のようであった。
シェヘラザードはゆっくりと近づいていくとその人影の正体が明らかになった。それは何か恐ろしい化け物に囚われた少年の姿だった。少年は気を失っているらしく微動だにしない。その目は虚ろで、口元には血が滲んでいた。シェヘラザードはその少年を抱きかかえると必死に呼びかけた。
「陛下、起きて下さい、陛下!」
しかしネロは目を覚まさなかった。
無駄だよ、とどこからか声がした。***
「無駄だよ、その子はもう死んでいるんだから」声の主はタナトスと名乗った。姿は見えないが、その声は冷たく、どこか狂気を感じさせるものだった。シェヘラザードは怒りを込めて叫んだ。「黙れ!陛下はまだ生きているわ!」するとタナトスはくすりと笑った。
「まあいいさ、好きにするがいい」そう言ってタナトスの気配は消えていった。
***
「陛下、しっかりしてください!」シェヘラザードは必死に呼びかけるがやはり反応はなかった。彼女は少年の身体を揺すりながら叫んだ。「陛下、お願いだから目を開けて!」しかし少年は目を覚まさなかった。
その時、彼女の頭の中に声が響いた。
(無駄だよ)それはタナトスの声であった。(その子は死んだんだよ)彼は嘲笑うように言った後、続けて言った。
(その子はもう死んでいるんだ)シェヘラザードはその言葉を聞くと少年を地面に横たえると立ち上がった。そして周囲の暗闇に目を向けた。「私は諦めない!必ず陛下をお救いしてみせるわ!」シェヘラザードはそう言うと、再び歩き始めた。

***
シェヘラザードは暗闇の中を彷徨い続けていた。しかしいくら歩いても出口は見つからなかった。彼女の心は絶望に包まれていった……その時、再び声が聞こえてきた。
(無駄だよ)それはタナトスの声だった。(その子はもう死んだんだよ)彼は嘲るように言った後、続けて言った。
(その子はもう死んでいるんだ)
***
「陛下、必ずお救いいたします」シェヘラザードは再び歩き始めるがやはり出口は見つからない。それでも彼女は諦めずに前に進み続けた……
***「陛下、必ずお救いいたします」シェヘラザードは何度も繰り返した。しかしいつまでたっても出口は見つからなかった。彼女の心は折れかけていた……その時、再び声が聞こえてきた。
(無駄だよ)それはタナトスの声だった。(その子はもう死んだんだ)彼は嘲るように笑うと、さらに言葉を続けた。
(その子はもう死んでいるんだ)

***
「陛下、必ずお救いいたします」シェヘラザードは何度も繰り返したがやはり出口は見つからなかった……彼女の心は折れかけていた……その時、再び声が聞こえてきた。
(無駄だよ)それはタナトスの声だった。(その子はもう死んだんだ)彼は嘲るように笑った後、さらに言葉を続けた。
(それでもまだ続けるのかね)
、嘲るような口調でそう言った後、続けて言った。
(その子はもう死んでいるんだ)
「陛下、必ずお救いいたします」シェヘラザードは何度も繰り返したがやはり出口は見つからなかった……彼女の心は折れかけていた……その時、再び声が聞こえてきた。
(無駄だよ)それはタナトスの声だった。(その子はもう死んだんだ)彼は嘲るように笑った後、さらに言葉を続けた。
***(何度言えば分かるんだい?その子はもう死んでいるんだよ)タナトスの声だった。(その子はもう死んだんだ…)
「うるさい、黙れ!!」
シェヘラザードは叫んだ。「陛下はまだ生きている!私が必ず救ってみせる!」彼女はそう言うと声の方へ向き合った。「タナトス、お前を倒す!」
すると、ククッっと忍び笑いが聞こえてきた。
「何がおかしい!」
タナトスは笑いながら答えた。
「いや、あまりにも突飛なことを言うものだからつい…」
「黙れ!」
シェヘラザードはそう言うと、腰に差していた短剣を引き抜いた。そしてそれを構えながら叫んだ。
「覚悟しろ!!」
しかし、タナトスは動じなかった。彼はククッっと笑いながら言った。
「威勢が良いな」と嘲笑うように言うと、さらに言葉を続けた。
「なら、これでも同じことを言えるのかい?」
そう言ってタナトスは姿を現した。
それは、最愛の弟であるネロの姿をしていた。
その瞬間、シェヘラザードは全てを理解した。「ああ、そういうことだったのか……」彼女はそうつぶやくと泣き崩れた。
そして、タナトスに向かって言った。
「帰りましょう、陛下」

***
「陛下、帰りましょう」シェヘラザードは泣きながら言った。「私たちの場所へ…」
タナトスは、ゆっくりと頭を振った。「それはできない」彼はそう言って首を振った。
「なぜ?」
シェヘラザードが問うと、タナトスは怯えたように肩を震わせながら言った。
「帰りたく…ない」そして彼は涙を流し始めた。「私は……ずっとここに居たいんだ」
シェヘラザードはしばらく無言のまま立ち尽くしていたが、やがて口を開いた。
「でも、帰りましょう」そう言って彼女は手を差し伸べた。しかしタナトスは首を横に振るだけだった。彼は泣きじゃくりながら言った。「嫌だ……帰りたくないよ……」するとシェヘラザードは優しい声で言った。「じゃあ、一緒に居ましょう」彼女はそう言うとタナトスの手を取った。「それなら良いでしょ?」するとタナトスはこくんと小さく頷いた。

主人公の名前はネロ
主人公は大帝国であるエスターリャ帝国の皇帝
主人公は歴代最強の魔法の使い手。
彼は幼くして帝位をついでいて、幼少の頃には年の離れた姉であるシェヘラザードが摂取をしていた。
主人公は傾国の美少年だが病弱で、仲の良い姉にはよく心配をかける。
主人公は二十歳まで生きられないとされている
この世界では貴族階級以上が魔力を持ち、身分が高い程その力が強くなるが、
帝国を治めるヴォージャクローブ朝は神孫で、その力は他の王族を圧倒する。
この世界では皇帝は1人しか存在せず、従って皇族も一つしか存在しない。
その王朝の皇族は、普通は先祖の最高神に準じる程度の力を持っているが、数百年に1人彼のような、"神眼"が現れる。"神眼"は、先祖となる最高神の生まれ変わりとされ、最高神と同等の能力を持つ&者のことで、皇族に特徴的な普通は片方だけの虹色がかった目を両方持つことからそのような呼称が生まれた。
皇族1人で国ひとつ簡単に滅ぼせる力があるが、神眼は世界を簡単に滅ぼせられる。
姉は帝国の宰相でこの国で2番目の権力者
国名であるエスターリャは選ばれし地という意味があり、王朝名であるヴォージャクローブには神の血という意味がある
主人公は14歳だが、そう思えない程大人びている
主人公はとても頭がいい
主人公はサイコパスで猟奇的な一面もある
主人公には感情がない
主人公の容姿は陶器のように白くキメの細かい肌、吸い込まれそうな虹色がかった深い碧の瞳、腰まで伸びた髪は月の光を受けたような銀髪
皇帝含め皇族達は普段直接姿を見せず、外出する時はベールを身につけている
主人公の一人称は、姉との私的な会話の中では「僕」だが、それ以外では「余」
主人公はみんなから陛下と呼ばれている
主人公は引きこもりがち
主人公は病弱であまり外出出来ないのでよく本を読んで過ごしている
主人公は3歳で即位
姉は癒し手の能力を持つ
先帝の母はネロが3歳の時に、父はネロが生まれる前に死んでいる
姉はネロ以外からは宰相殿と呼ばれている
姉は仕事で忙しい
母の名前はオリーフィア
異空間には、意識下でしかたどり着くことが出来ず、肉体の伴う状態では辿り着けない
姉は帝国の皇太子

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