プロンプト詳細
投稿日:2022-08-16 09:09:06
タイトル
つかれて・・・
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説明
大学生のリコが、色々苦労する話。
転載・改変可否
説明欄での条件による
(未記入の場合、個別に許可を得られなければ禁止です)プロンプト(本文)
――昼休み――
リコはため息をついた。今日の二時限目、先生に当てられたが答えられなかったからだ。
理由は単純、昨夜オールで勉強したせいだ。眠気を必死にこらえて話を聞いていたが、運悪く質問を聞き逃してしまったのだ。
恥ずかしくて仕方がなく、いつもならキャンパスの中で食べる昼ご飯を外で食べた。その後大学に戻ろうとした時だった。信号待ちをしていると、さっきから蛇行して怪しい動きをしていたトラックがリコに向かって突っ込んできた。思わず悲鳴を上げたが、誰かに突き飛ばされた。
「あ、ありがとうございます・・・」
リコがそう言いながら振り向くと、そこには先程までリコが居た所で停止しているトラックと、一人の男が居た。
「怪我はないか?」
男は心配そうな顔で駆け寄ってきた。一目見て、最初の感想はこうだった。・・・かなりイケメンだなぁ。
男の髪は黒、だが耳の上だけ白い。しかし、何より印象的だったのはその目の色だった。セントラル・ヘテロクロミア、虹彩に同時に複数の色が存在するという。噂に聞いたことはあるが実際に見たのは初めてだった。
「えーと、ない・・・と、思います。多分?」
そういうと男はリコの目を覗き込んできた。珍しい色の眼に、何もかも見透かされているような気がした。一瞬青緑色の瞳に、橙が混じったような気がするのは目の錯覚だろう。
「疲れているようだが・・・。何かあったのか?」
心配してくれている男に、リコは首を横に振った。助けてもらったとはいえ知らない人にそこまでしてもらうのは迷惑だろう、と考えたからだ。だが男は微笑んだ。
「私はかなり珍しい〝仕事〟をしているんだ。それで日本に来たんだが、もう用は済んでいる。だから迷惑ではない」
ドキッとした。・・・バレてる。恥ずかしさやらなんやらで目を白黒させるリコに、男は言った。
「私でよければ、話を聞こう」
「あ・・・ありがとうございます。でも、そろそろ戻らないと授業が始まってしまうので・・・。○○大学です、大体六時に授業が終わります」
リコはそう言って、返事も待たずに大学に駆け戻った。
急いで着席する。だがその後の授業中、内容は全然頭に入らなかった。代わりに考えていたのは男のこと。名前も聞いていなかったな、そう少し後悔する。
――放課後――
キャンパスを出ると、校門の少し先で男が待っていた。差し出された手をつなぐ。
「行こう」
そう言って、すぐそばにあったドアを男が開ける。・・・あんなところに、ドアなんてあったか?疑問に思う間もなく、手を引かれて中に入る。広がっていたのは東洋風の空間だった。かなり広い。そしてアンティーク物が大量にある、というか現代的な電化製品とかが一つも見当たらない。まるで中世にタイムスリップしたみたいだ・・・そんな感想をリコは抱いた。東洋の高僧とかが住んでそうだなぁ。
「座ってくれ」
そう言われ、男が指さした椅子に座る。珍しいものだらけできょろきょろして、近くにあったガラスケースの中の花瓶のようなものを取ろうとすると。
「ガラスケースの中の物に触るな、届かないとは思うが本も上のほうの物は触らないほうがいい。危険なものばかりだ」
花瓶のようなものに伸ばしていた手を引っ込めた。男が別の部屋に消え、数分後お盆にお茶を載せて戻ってきた。
「これくらいしかなくて、すまないが。蜂蜜茶だ。カモミールを使ってる、リラックス効果があるらしいからな」
口にあえばいいが、そう言われて置かれたお茶からはいい香りが漂ってくる。一口飲むと甘いのにしつこくない、それでいてお茶の風味もちゃんと残している・・・絶品だった。本場の物よりおいしいかも。小さく息を吐く。男の言ったとおり、リラックスしてきた。
「自己紹介してなかったな。私はスティーヴン・ストレンジ」
ストレンジ?確か奇妙な、とかそういう意味じゃなかったか?外国人の名前って面白いなぁ。そう思ったが口には出さなかった。
「ストレンジさん・・・私はリコです」
「そうか、リコ。それで・・・。本題なんだが、今日の昼にあったとき、君は辛そうだった。嫌なことがあったのだろう?話してくれないか。〝仕事〟とも関係があってね」
そう言って微笑むストレンジに、リコは全てをぶちまけた。大学での不満、成績が上がらないこと、それを挽回するため徹夜で勉強したらそれが原因で恥をかいたこと。話すたびに心が晴れて行った。何分ぐらい経っただろうか、全部吐露してしまうとこれまでが嘘のようにスッキリしていた。気分が良くて、リコは笑顔になる。
「やっと笑ったな。辛かっただろう、君はつかれていたから。もう一杯飲むか?」
リコは頷いた。つかれている、疲れている。確かに疲れていた。でもストレンジのおかげで元気になれた。待っている間にリコはスマホを見た。Wi-Fiが勝手につながっている。タイムスリップした訳ではないらしい。帰り道を調べておこう、そう思ってグーグルマップを開くと。
――現在地が、何故か日本ではなく、NYのブリーカー通り177Aになっていた。思考停止し、どういう事か必死に理解しようとする。すると急に肩を叩かれた。振り向くと苦笑したストレンジが立っていた。
「スマホの位置情報か、考えもしなかったな。そうだ、ここはNYだ。黙っていてすまなかった。
・・・ああ、大丈夫。君が心配なのは帰れるかどうかだろう?帰れるさ、来れたのだから当然だろう?」
そういうストレンジの目には、また橙が混じっていた。あれは目の錯覚ではなかったのだろうか?混乱するリコにストレンジは説明をしてくれた。
曰く、彼は魔術師。リコに憑いていたたちの悪い幽霊を送り返すため、日本に来たらしい。そして憑かれていたせいでリコは何もうまくいかず、悪循環に陥っていたそう。あの『つかれていた』は、疲れたではなく憑かれただったのか。この世界に魔術なんてあるわけが無い、だがスマホの位置情報は何度確かめてもNY。しかも半信半疑のリコにストレンジは魔術を幾つか見せてくれた。そこまでされたら信じるしかないだろう。しかしまぁ、魔術師とは。確かに珍しい仕事だ。目をキラキラさせたリコにストレンジは言った。
「お詫びと言っては何だが。君は魔術に興味があるようだし、見せよう」
マントが飛んできた。それをストレンジが纏った途端、彼の服は変化していた。魔術師の道着、なるほどそこら辺のファンタジーに出てくる魔法使いの服よりよっぽどカッコいい。床に橙の線が引かれ、魔法陣になる。ストレンジが手を上げる。手のひらにこれまた橙の記号が現れた。記号は次から次へと現れ、ついには空間を埋め尽くした。そのうちの一つがリコの胸に吸い込まれていく。次の瞬間、目の前にムンクの叫びのような形の黒い靄が現れ、リコは思わず悲鳴を上げる。だが、黒い靄はすぐに記号に切り裂かれ、散り散りになり、魔法陣に落ちた所から変化していく。黒から白へ、闇から光へ。全ての粒子が白く染まり、人のような形をとる。それはリコとストレンジにお辞儀するような動作を見せてから、流星のように夜空に駆けていった。言葉も出ないリコに、ストレンジが優しく声をかけてくる。
「これで、君に憑いていた霊は送り返せた。あー・・・その、本当にすまなかった。迷惑をかけてしまって」
「いいえ、全然迷惑じゃなかったです。とても綺麗で。また見たいかもしれないぐらい」
「なら、よかった。そろそろ日本に帰そう。君の家の前でいいか?」
リコは頷いた。ストレンジが指輪のようなものを嵌め、手で円を描く。すると橙の光が円状に広がり、その先はリコの家に繋がった。瞬間移動、ポータル。その言葉が脳裏に浮かんだ。恐る恐るくぐる。
「リコ」
ストレンジに呼ばれ、振り向く。手を差し出され、少し驚くもすぐに笑顔になり握り返した。ポータルを挟んで、日本とNY、国境を越えて握手する。お互い固く握りあい、そしてどちらからともなく手を離した。リコは名残惜しそうに、だが振り向かずに家に戻る。その後ろでポータルが閉じた。
リコを見送ったストレンジは笑顔のまま息をついた。誰に言うでもなく呟く。今日はウォンもいない。
「無事に終わってよかった。彼女・・・リコ、霊に好かれる体質だな。最後の握手の時に守護呪文をかけたからまた悪い霊に憑かれることはないだろうが。たまに様子を見てやったほうがいいな」
(完)
後日、体内に入った記号――調べたらルーン文字らしい――のせいか、幽霊が見えて悲鳴を上げてしまい、完全武装のストレンジ以下魔術師たちがポータルから飛び出してきて幽霊以上にギョッとしたのはまた別の話。
リコはため息をついた。今日の二時限目、先生に当てられたが答えられなかったからだ。
理由は単純、昨夜オールで勉強したせいだ。眠気を必死にこらえて話を聞いていたが、運悪く質問を聞き逃してしまったのだ。
恥ずかしくて仕方がなく、いつもならキャンパスの中で食べる昼ご飯を外で食べた。その後大学に戻ろうとした時だった。信号待ちをしていると、さっきから蛇行して怪しい動きをしていたトラックがリコに向かって突っ込んできた。思わず悲鳴を上げたが、誰かに突き飛ばされた。
「あ、ありがとうございます・・・」
リコがそう言いながら振り向くと、そこには先程までリコが居た所で停止しているトラックと、一人の男が居た。
「怪我はないか?」
男は心配そうな顔で駆け寄ってきた。一目見て、最初の感想はこうだった。・・・かなりイケメンだなぁ。
男の髪は黒、だが耳の上だけ白い。しかし、何より印象的だったのはその目の色だった。セントラル・ヘテロクロミア、虹彩に同時に複数の色が存在するという。噂に聞いたことはあるが実際に見たのは初めてだった。
「えーと、ない・・・と、思います。多分?」
そういうと男はリコの目を覗き込んできた。珍しい色の眼に、何もかも見透かされているような気がした。一瞬青緑色の瞳に、橙が混じったような気がするのは目の錯覚だろう。
「疲れているようだが・・・。何かあったのか?」
心配してくれている男に、リコは首を横に振った。助けてもらったとはいえ知らない人にそこまでしてもらうのは迷惑だろう、と考えたからだ。だが男は微笑んだ。
「私はかなり珍しい〝仕事〟をしているんだ。それで日本に来たんだが、もう用は済んでいる。だから迷惑ではない」
ドキッとした。・・・バレてる。恥ずかしさやらなんやらで目を白黒させるリコに、男は言った。
「私でよければ、話を聞こう」
「あ・・・ありがとうございます。でも、そろそろ戻らないと授業が始まってしまうので・・・。○○大学です、大体六時に授業が終わります」
リコはそう言って、返事も待たずに大学に駆け戻った。
急いで着席する。だがその後の授業中、内容は全然頭に入らなかった。代わりに考えていたのは男のこと。名前も聞いていなかったな、そう少し後悔する。
――放課後――
キャンパスを出ると、校門の少し先で男が待っていた。差し出された手をつなぐ。
「行こう」
そう言って、すぐそばにあったドアを男が開ける。・・・あんなところに、ドアなんてあったか?疑問に思う間もなく、手を引かれて中に入る。広がっていたのは東洋風の空間だった。かなり広い。そしてアンティーク物が大量にある、というか現代的な電化製品とかが一つも見当たらない。まるで中世にタイムスリップしたみたいだ・・・そんな感想をリコは抱いた。東洋の高僧とかが住んでそうだなぁ。
「座ってくれ」
そう言われ、男が指さした椅子に座る。珍しいものだらけできょろきょろして、近くにあったガラスケースの中の花瓶のようなものを取ろうとすると。
「ガラスケースの中の物に触るな、届かないとは思うが本も上のほうの物は触らないほうがいい。危険なものばかりだ」
花瓶のようなものに伸ばしていた手を引っ込めた。男が別の部屋に消え、数分後お盆にお茶を載せて戻ってきた。
「これくらいしかなくて、すまないが。蜂蜜茶だ。カモミールを使ってる、リラックス効果があるらしいからな」
口にあえばいいが、そう言われて置かれたお茶からはいい香りが漂ってくる。一口飲むと甘いのにしつこくない、それでいてお茶の風味もちゃんと残している・・・絶品だった。本場の物よりおいしいかも。小さく息を吐く。男の言ったとおり、リラックスしてきた。
「自己紹介してなかったな。私はスティーヴン・ストレンジ」
ストレンジ?確か奇妙な、とかそういう意味じゃなかったか?外国人の名前って面白いなぁ。そう思ったが口には出さなかった。
「ストレンジさん・・・私はリコです」
「そうか、リコ。それで・・・。本題なんだが、今日の昼にあったとき、君は辛そうだった。嫌なことがあったのだろう?話してくれないか。〝仕事〟とも関係があってね」
そう言って微笑むストレンジに、リコは全てをぶちまけた。大学での不満、成績が上がらないこと、それを挽回するため徹夜で勉強したらそれが原因で恥をかいたこと。話すたびに心が晴れて行った。何分ぐらい経っただろうか、全部吐露してしまうとこれまでが嘘のようにスッキリしていた。気分が良くて、リコは笑顔になる。
「やっと笑ったな。辛かっただろう、君はつかれていたから。もう一杯飲むか?」
リコは頷いた。つかれている、疲れている。確かに疲れていた。でもストレンジのおかげで元気になれた。待っている間にリコはスマホを見た。Wi-Fiが勝手につながっている。タイムスリップした訳ではないらしい。帰り道を調べておこう、そう思ってグーグルマップを開くと。
――現在地が、何故か日本ではなく、NYのブリーカー通り177Aになっていた。思考停止し、どういう事か必死に理解しようとする。すると急に肩を叩かれた。振り向くと苦笑したストレンジが立っていた。
「スマホの位置情報か、考えもしなかったな。そうだ、ここはNYだ。黙っていてすまなかった。
・・・ああ、大丈夫。君が心配なのは帰れるかどうかだろう?帰れるさ、来れたのだから当然だろう?」
そういうストレンジの目には、また橙が混じっていた。あれは目の錯覚ではなかったのだろうか?混乱するリコにストレンジは説明をしてくれた。
曰く、彼は魔術師。リコに憑いていたたちの悪い幽霊を送り返すため、日本に来たらしい。そして憑かれていたせいでリコは何もうまくいかず、悪循環に陥っていたそう。あの『つかれていた』は、疲れたではなく憑かれただったのか。この世界に魔術なんてあるわけが無い、だがスマホの位置情報は何度確かめてもNY。しかも半信半疑のリコにストレンジは魔術を幾つか見せてくれた。そこまでされたら信じるしかないだろう。しかしまぁ、魔術師とは。確かに珍しい仕事だ。目をキラキラさせたリコにストレンジは言った。
「お詫びと言っては何だが。君は魔術に興味があるようだし、見せよう」
マントが飛んできた。それをストレンジが纏った途端、彼の服は変化していた。魔術師の道着、なるほどそこら辺のファンタジーに出てくる魔法使いの服よりよっぽどカッコいい。床に橙の線が引かれ、魔法陣になる。ストレンジが手を上げる。手のひらにこれまた橙の記号が現れた。記号は次から次へと現れ、ついには空間を埋め尽くした。そのうちの一つがリコの胸に吸い込まれていく。次の瞬間、目の前にムンクの叫びのような形の黒い靄が現れ、リコは思わず悲鳴を上げる。だが、黒い靄はすぐに記号に切り裂かれ、散り散りになり、魔法陣に落ちた所から変化していく。黒から白へ、闇から光へ。全ての粒子が白く染まり、人のような形をとる。それはリコとストレンジにお辞儀するような動作を見せてから、流星のように夜空に駆けていった。言葉も出ないリコに、ストレンジが優しく声をかけてくる。
「これで、君に憑いていた霊は送り返せた。あー・・・その、本当にすまなかった。迷惑をかけてしまって」
「いいえ、全然迷惑じゃなかったです。とても綺麗で。また見たいかもしれないぐらい」
「なら、よかった。そろそろ日本に帰そう。君の家の前でいいか?」
リコは頷いた。ストレンジが指輪のようなものを嵌め、手で円を描く。すると橙の光が円状に広がり、その先はリコの家に繋がった。瞬間移動、ポータル。その言葉が脳裏に浮かんだ。恐る恐るくぐる。
「リコ」
ストレンジに呼ばれ、振り向く。手を差し出され、少し驚くもすぐに笑顔になり握り返した。ポータルを挟んで、日本とNY、国境を越えて握手する。お互い固く握りあい、そしてどちらからともなく手を離した。リコは名残惜しそうに、だが振り向かずに家に戻る。その後ろでポータルが閉じた。
リコを見送ったストレンジは笑顔のまま息をついた。誰に言うでもなく呟く。今日はウォンもいない。
「無事に終わってよかった。彼女・・・リコ、霊に好かれる体質だな。最後の握手の時に守護呪文をかけたからまた悪い霊に憑かれることはないだろうが。たまに様子を見てやったほうがいいな」
(完)
後日、体内に入った記号――調べたらルーン文字らしい――のせいか、幽霊が見えて悲鳴を上げてしまい、完全武装のストレンジ以下魔術師たちがポータルから飛び出してきて幽霊以上にギョッとしたのはまた別の話。
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